UAE法人税法では、メインランド法人及びフリーゾーン法人のいずれにも適用され、原則としてAED 375,000までの課税所得に対しては0%、AED 375,000を超える課税所得に対しては9%となります。
しかしながら、一定の規模の法人に対しては当面の間、法人税が課されません。これは小規模事業者救済制度と呼ばれています。この小規模事業者救済制度について、より詳しく説明します。
小規模事業者救済制度とは?
UAEでは、トヨタ自動車の販売代理店を務めるAl Futtaim Groupや、UAE最大規模のショッピングモールを運営するMajid Al Futtaim社など多くの大企業やホールディングスカンパニーが存在します。
その一方で、母数で言うとUAEに存在する会社のほとんどは中小企業や零細企業に該当するため、一律に法人税を課してしまうと、資本力の弱い企業の活動に急速なブレーキがかかり、経済の停滞を招く可能性があります。
そこで法人税負担やコンプライアンス・コストから中小企業を保護するために、法人税法を適切に遵守している中小企業に対しては一定期間法人税を免除するという規定が設けられました。これを「小規模事業者救済制度(small business tax relief)」と呼びます。
小規模事業者救済制度は2023年4月3日に閣議決定第73号として内閣から発効されています。
こういった税制導入時混乱を避けるために、中小企業に対する税制優遇策を行うことは過去に日本でも度々行われています(消費税の免税点制度、租税特別措置に基づく法人税率の優遇など)。
小規模事業者救済制度の対象者とその条件
会計期間における年間売上高が3,000,000AED(1AED=40円の場合、1年間で約1億2000万円の売上高)以下の企業および個人は、この救済制度の恩恵を受けることができます。
この制度は、2023年6月1日以降に開始する会計年度に適用され、現時点では2026年12月31日までに終了する予定です(閣議決定第73号第2条1項2項)。
本制度の対象になった場合、該当の会計期間において年間売上高が上記の基準に満たない場合は、法人税導入前と同様、法人税を納税する義務が無くなります。
ただし、過去の会計期間において一度でも売上高が3,000,000AEDを超えたことがある場合、小規模事業者の救済制度は適用されない点に注意が必要です(閣議決定第73号第2条3項)。
当該救済制度を適用するためには、事前に当局に対して小規模事業者救済制度の適用に対して適用の選択を行う必要があります(法人税FAQ第28項)。
また、この救済制度の適用を受けるためには、上記の金額基準を満たすことに加え、小規模企業救済の適用を選択する居住者は、以下のいずれにも該当してはならない点に注意が必要です(閣議決定第73号第3条1項)。
- 多国籍企業グループを構成する会社。
- 適格フリーゾーン・パーソン。
なお「居住者は」とある通り、非居住者はこの制度の対象になりません。小規模事業者の対象となる居住者とは、以下のいずれかに該当する者をいいます(法人税法第11条3項)。
- UAEの法令に基づき承認・設立された法人(フリーゾーンを含む)。
- 外国当局において法人設立されたが、UAEにおいて管理・統制されている法人。
- UAEで事業活動を行う自然人。
- 内閣または財務大臣の決定により決定されるその他の者。
意図的に小規模事業者に該当しようとする行為は「NG」
小規模事業者に該当すれば法人税の納税義務がないということを利用し、意図的に会社を複数に分割したり、別会社に売上を付け替えることで売上を分散することで、小規模事業者に該当することは出来るのでしょうか。
結論から言うと、こういった行為は人為的な事業分離行為(閣議決定第73号第6条1項)として禁止されています。違反した場合は不正行為防止規則(法人税法第50条ガイドライン)に該当し、当局の取り締まりの対象となります。
事業が人為的に分離されているかどうかの判断基準としては、その商行為に合理的な根拠があるかどうかという点や、財務・経済・組織的その他の全ての関連する事実と状況を考慮して、実質的に同一の事業または事業活動を行っているかどうかを考慮するものとされています(閣議決定第73号第6条2項)。
まとめ
UAEで法人税法が開始されたことは事実ですが、中小企業においては、引き続き税制のメリットを受け続けることも可能です。
小規模事業者の救済はさまざまな条件があり、適切に法令を遵守していなかった場合や、条件を満たさなかった場合は原則通り納税する義務が生じますし、延滞税や罰金等が追加で発生する可能性もあります。
そのようなリスクを避けるために、適用当初の判断には慎重になる必要があると考えます。
自社で検討することが不安な方や、専門家に任せたいというお客様に関しては、是非お気軽にお問い合わせください。
