日本では国内法人のうち、100%の完全親子会社であるものについては、親会社と子会社を連結し、1つの法人格のように法人税の申告を行う制度があります。これを「連結納税」と言います。
連結納税と似た制度が2023年6月から開始されたUAEの法人税制度でも導入されました。今日はUAEの法人税法上における税務グループ(tax group)の制度について、その適用条件やメリット、デメリットなどについて説明していきたいと思います。
税務グループの概要
UAEの居住者である親会社は、下記の全ての要件をみたす他の居住者を子会社としてグループを形成し、1つの納税主体として税務申告を行うことが出来ます。
税務グループ制度はあくまで権利であり強制適用ではないことから、税務当局に対し自ら届出をする必要がある点に注意が必要です(法人税法第40条2項3項)。
【税務グループとなるための要件】
税務グループを形成するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります(法人税法第40条1項)。
・親会社及び子会社ともに居住者であること。
・親会社は、直接的または間接的に子会社の株式の95%以上を保有すること。
・親会社は、直接的または間接的に子会社の議決権の少なくとも 95%以上を保有すること。
・親会社は、直接的又は間接的に子会社の利益及び純資産の95%以上を取得する権利を有すること。
・親会社も子会社も法人税の免除者に該当しないこと。
・親会社も子会社も適格フリーゾーン・パーソンに該当しないこと。
・親会社と子会社の会計年度が同じであること。
・親会社と子会社はいずれも同じ会計基準を使用し財務諸表を作成していること。
なお、税務グループと混同されやすい概念として、「適格グループ」があります。これらは別の定義であり、異なる概念です。以下の記事で説明していますので、参考にしてください。
税務グループが承認されると、親会社が全体を代表する単一の課税対象者として扱われます。
親会社は、税務グループを代表して、税務登録や法人税申告、納税などに関するすべての義務を遵守しなければなりません(同条4項5項)。
親会社および各子会社は、税務グループのメンバーである場合、その課税期間について税務グループが支払う法人税について連帯して責任を負うことになります(同条6項)。
税務グループにおける課税所得の計算は、親会社が作成した連結財務諸表に基づいて行われます。
そのため、親子会社間で行われた取引、例えば親子会社間で発生した売上及び売上原価、固定資産の売買及びそれらに起因する未実現利益、貸倒引当金の計上、グループ間の金銭貸借や利息などは、連結修正仕訳を計上し、連結上全てなかったものとして取り扱われます。連結修正仕訳の計上後に適正に作成された連結財務諸表を元に課税所得が計算され、その課税所得に基づく法人税を税務グループ全体として計算し、申告・納税することになります。
なお、「95%」という閾値は、例えば、適用される法律が法人の設立に2名以上の株主を要求している場合など、少数株主が存在する状況を許容するものです。日本では100%子会社の場合でしか連結納税制度の適用が認められないことと比較すると、UAEのほうが柔軟な運用となっています。
税務グループが終了・変更される場合
以下の2つの場合のいずれかに該当する場合、税務グループは終了されます(法人税法第40条10項)。
- 親会社がタックス・グループの取消請求を行い、当局の承認を受けた場合。
- 親会社がタックス・グループとなるための条件を満たさなくなった場合。
税務グループが終了した場合、税務グループ内の未利用の繰越欠損金は以下のように配分されます(法法第40条7項)。
- 別の親会社が課税事業者として存続する場合、すべての税務上の損繰越欠損金は親会社に残ります。
- 親会社が課税対象者でなくなった場合、未使用の繰越欠損金は、タックス・グループ内の子会社の所得から差し引くことはできません。
以下の2つのケースのいずれかに該当する場合、当局に提出したタックス・グループを止めることなく親会社を他の会社に置き換えることが出来ます(法法40条12項)。
- 新しい親会社が、税務グループの形成に関する法律に規定されているすべての条件を満たす場合。
- 以前の親会社が消滅したが、新しい親会社または子会社が、その権利と義務に関連するすべてにおいて法的後継者となる場合(吸収合併などの組織再編の場合など)。
税務グループを採用すべきケース、不利になるケース
税務グループを形成することで、黒字の会社と赤字の会社の所得が合算されることになります。
赤字の会社は黒字の会社の課税所得を押し下げる効果があるため、税務グループを形成することで、全体として法人税を少なくすることが可能です。そのため、全ての会社が黒字(赤字)である税務グループを除いては、税務グループを形成することで税額を引き下げる効果があると言えます。
一方で税務グループが不利に働くこともあります。例えば税務グループを構成することで、小規模事業者救済制度が受けられなくなるケースなどが考えられます。小規模事業者救済制度については、以下の記事で説明しています。
また、税務グループとしての連結財務諸表を作成するには、一般的に単体の財務諸表を作成するより非定型的かつ複雑な知識が要求されることから、税務コンサルタントへ支払う報酬も高くなりがちです。
そういったメリットやデメリットを踏まえて、税務グループ制度の届出を行うかどうかを決めると良いでしょう。
まとめ
今日は税務グループの条件や、そのメリット・デメリットについて解説しました。
日本における連結納税制度が一般的ではなく難易度が高いように、UAEの税務グループ制度にも同様のことが言えます。しかし、イニシャルでかかる工数やコストを受け入れて税務グループの構築体制を整えてしまえば、それ以降は大きな維持コストがかかるわけでもないので、メリットがある制度でもあると言えます。
税務グループを構成した場合の法人税の節税効果を試算されたい方や、実際に税務グループの届出を行いたい方、また連結財務諸表の作成を依頼したいと考えている方は、弊会計事務所までご連絡ください。
