法人税は会計期間における課税所得の金額によって決まります。
課税所得は会計期間の売上高(益金)と経費(損金)の金額によって決まることから、売上高がいくらであるかが法人税の金額に大きく影響することになります。
そこで今日は、企業の売上高(収益)をどのタイミングでいくら計上したらよいかという点について解説します。
日本における収益認識基準
日本の会計基準において、売上高の認識は『実現主義』という考え方が採用されています。
これは販売により、財やサービスが提供され相手側に移転し、その対価として現金または現金同等物を受け取ったタイミングが、収益の認識のタイミングとなるという考え方です。あくまで販売の「実現」を重視しており、実際に振り込みなどで現金預金を受け取っていなくとも、いわゆる売掛であっても既に販売が実現しているのであれば、売上を認識するという考え方です。
例えば製造業においては、製品を出荷した時点が実現のタイミングと考えるケース(出荷基準)や製品を相手方が検収した時点を実現のタイミングと考えるケース(検収基準)などがあります。
税務計算上も会計の売上高と整合させることになっており、『益金の額は、一般に「公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されるものとする』(法人税法22条1項)と規定されています。
なお昨今は、後述するIFRSとのコンバージェンス(国際的調和化)の観点から、「収益認識に関する会計基準(新収益認識基準)」によりIFRSの収益認識の要素を多く取り入れた会計基準を上場会社や大企業を中心に適用されることになっています。
UAEにおける収益認識基準
UAEでは法人税上の収益認識基準としてIFRS(国際会計基準)に準拠しています。
もともとはUAE GAAP(UAE会計基準)というローカルの会計基準が存在していましたが、法人税Q&A J. 課税所得78項においてIFRSはUAEで最も一般的に使用される会計基準である旨が述べられています。
UAEでも日本と同様、収益認識基準は会計に合わせる形で税務上も計算することが求められています。
IFRSの中で特に収益認識についての基準を定めているのが、IFRS第15号です。
この基準は、企業がいつ、いくら、どのように収益を計上すべきかについて定めています。
IFRS上、企業がいつ適切に収益を計上すべきかは「実現原則」または「収益実現原則」と呼ばれており、これにより企業が収益を認識する時期と方法が決まるのです。
具体的には、IFRS第15号は以下の5つのプロセスで収益を認識します。
1. 契約の特定: 契約の確定: 両当事者間で契約が確定した時点、つまり、契約が法的に拘束力を持ち、契約内容を変更することが難しくなった時点を指します。
2. 契約の性能義務の特定: 契約で約束された商品やサービスを「履行義務」と呼びます。企業が顧客に提供すべき商品やサービスのことを指し、履行義務は個々に区分可能なものとして識別します。
3. 取引価格の決定: 財・サービスの提供によって企業が受取る対価の見込み金額を「取引価格」と言います。取引価格は、取引にかかるリスク(例:貸し倒れ)や慣習(例:値引き、リベート、返品等)を考慮した上で算定します。
4. 取引価格の性能義務への割り当て: もし契約に複数の約束された商品やサービスが含まれる場合、履行義務ごとに取引価格を配分します。契約の中に一つの履行義務しか存在しない場合には、この処理は不要になります。
5. 売上の認識: 最後に、企業はその履行義務を充足したとき、つまり、商品やサービスを顧客に提供したときに収益を認識します。「履行義務の充足」とは、財・サービスに対する支配が顧客に移転している状態を言います。
収益の認識には2パターンあり、履行義務がある一時点で充足される場合は一時点で認識します。
一方、履行義務が一定期間に渡る場合は、進捗度に応じて徐々に収益認識します。
日本とUAEで売上基準に相違が生じた場合の会計上の取り扱い
上記で記載した通り、日本基準では、財・またはサービスの移転及び現金及び現金同等物の受領という基準で収益を認識するのに対し、IFRSでは5つのステップに応じて、収益を認識するという点でアプローチが異なることがお分かりいただけると思います。
参考:日本とUAEで収益認識の違いが生じた場合の会計上の取り扱い
親会社及び子会社が採用する会計方針は、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、原則として統一しなければならない(企業会計基準第22 号「連結財務諸表に関する会計基準」第17項)ことから、子会社の財務諸表を親会社で連結する際は原則として調整しなければなりません。
ただし、当面の取り扱いとして、在外子会社がIFRSやUS GAAPを採用している場合にはそのまま連結決算手続上利用することができると定められています(実務対応報告第 18 号 )。
(1) のれんの償却
(2) 退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理
(3) 研究開発費の支出時費用処理
(4) 投資不動産の時価評価及び固定資産の再評価
(5) 資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整
まとめ
収益認識基準は会社によっても異なりますし、日本における収益認識基準そのままUAEで当てはめることは出来ない可能性もあります。連結会計上、UAE子会社を日本親会社において連結する際も、一定の調整が必要になる可能性もあります。
UAEでの法人税の適用に際して収益認識基準を改めて検討したい、または専門家の意見が聞きたいという方はお気軽にご相談ください。
