会社を経営していると、業績によって黒字になることもあれば、赤字になってしまうこともあります。
法人税は黒字になった(課税所得が発生した)場合に、その利益の金額に対して税金がかかるという制度ですので、黒字になった場合は税金を支払うことになりますが、赤字になったとしてもその税金が還付されるわけではありません。
しかし、赤字になってしまった場合でも税負担が過大にならないように一定の救済措置があります。
本稿では、過去の赤字を繰り越すことが出来る繰越欠損金の制度について説明していきたいと思います。
繰越欠損金とは何か?
繰越欠損金を一言で説明すると、ある一定期間において損失が出てしまった場合に、その損失を将来の所得と相殺することで将来の納税額を減らす効果がある金額のことを指します。
例えば、以下のようなケースを考えてみます。
1. 会社設立後、最初の1期目は設備投資や支出が重なり△50の損失が出た。
2. 2期目も営業活動が思うように振るわず、△200の損失が生じました。
3. 3期目は設備投資や販路開拓が成功し、500の利益が出た。
もし繰越欠損金という制度がなければ、最初の期間は赤字のため税金は0、次の期間も同様に税金は0となり、その次の期間は、500×9%=45の納税が発生することになります。
この場合、1期目から3期目までのトータルとしてみたときに、通期では250の利益しか出ていないにも関わらず、45の納税が発生しています。この場合の実効税率は45÷250=18%となります。
しかし、繰越欠損金という制度があることで、1期目と2期目の損失額は将来に繰り越され、3期目の黒字と相殺されることになります。
3期目の課税所得を具体的に計算すると、500-50-200= 250が税金の対象になる課税所得となります。これによって、納税額は 250×9% = 22.5 に減少します。
この場合の実効税率は 22.5 ÷ 250 = 9% となり、正しい税率に収束します。
繰越欠損金の制度により、仮に赤字が続いた場合であっても、将来の税額のマイナス効果を繰り越せるという形を取る事で、税金のクッションのような役割が果たされているのです。
繰越欠損金の制度について
繰越欠損金の利用期限と範囲
UAEにおいては、繰越欠損金を無制限に繰り越すことができます(法人税法第37条1項)。つまり、赤字が出た場合は繰越期間に上限はありません。繰り越した繰越欠損金は、会計期間における課税所得の75%まで控除することが出来ます(同条2項)。
ただし、2023年6月以前の法人税施行前に発生した繰越欠損金や、法人税の課税対象者になる前に発生した繰越欠損金については、法人税の対象となっていないことから法人税の削減効果も認めていません。よって、繰越欠損金も繰り越せないということになります(法法第37条3項)。
欠損金の譲渡について
以下の条件がすべて満たされる場合、繰越欠損金を別の課税対象者の課税所得と相殺し、課税所得を軽減することが出来ます(法法第38条1項)。
- どちらの課税対象者も居住者であること。
- 課税対象者が相手方に対して少なくとも 75%を直接的または間接的に所有すること。
- いずれの者も法人税の免除者に該当しないこと。
- どの人物も適格フリーゾーン・パーソンに該当しないこと。
- 課税対象者の会計年度は同じ日に終了すること。
- 同じ会計基準を使用して財務諸表を作成すること。
繰越欠損金は原則として会社単体の概念ですが、資本関係が75%以上あり、会計基準や期間など前提条件が変わらない会社グループであれば、繰越欠損金はグループとして使うことが出来るという規定になります。
これは、課税対象者の所有権が継続している、もしくは事業が継続しているとみなされるためです。
繰越欠損金の制限について
繰越欠損金は、以下のケースに該当しない場合、繰越欠損金の利用が制限される可能性があります(法法第39条1項)。これは、将来欠損金の回収見込みがないと判断した株主(売手)が、利益の出ている会社に株式を譲渡し、繰越欠損金を相殺する権利を売却することで売却益を得る行為を防止する、もしく課税所得が出ている法人(買手)が欠損金を持つ法人を買収することにより法人税額を人為的に減少させるいわゆる「欠損金取引」を防止する規制でもあります。
- 欠損金が発生する会計期間において、株主等の50%超の所有者が変更されていること。
- 株主等の変更後、事業内容が同一または類似の事業を行っていないこと。
なお、同一または類似の事業または事業活動を継続しているかどうかは、以下のように判断します(同条2項)。
- 所有権が変更される前と同じ資産の全部または一部を使用していること。
- 所有権が変更された後、その事業のアイデンティティや運営に重大な変更がないこと。
まとめ
繰越欠損金という制度は法人税の納税額のクッションの役割を果たし、納税者にとっても有利な制度です。
一方で、繰越欠損金を自社以外で使う場合は、しっかりと要件を確認したうえでおこなわないと、思わぬ制限を受けてしまう可能性もあります。
繰越欠損金の計上方法や使用方法、もしくはその取扱いなどについて疑問点や不安な点がある方は、お気軽に当会計事務所までお問い合わせください。
