日本では財務諸表を作成する際、GAAP(一般に公正妥当と認められる会計基準)に従って財務諸表が作成される必要があります。ただし金融商品取引法上においては、諸外国との比較可能性を担保するため、IFRS(国際会計基準)やUS GAAP(米国会計基準)に従って財務諸表を作成することもできます。
UAEにおいては 2023年6月1日より法人税法が施行され、財務諸表を作成する必要が出てきました。本日は、財務諸表の作成にあたりどういった会計基準に従って財務諸表を作成すればよいかという点を記載します。
法人税法上は国際財務報告基準(IFRS)の適用が推奨されている
ビジネスのグローバル展開に伴い、企業は様々な会計基準に準拠する必要があります。ドバイでは、透明で正確な財務報告を行うために、企業は国際財務報告基準(IFRS)またはアラブ首長国連邦一般に公正妥当と認められた会計原則(UAE GAAP)のいずれかに従わなければなりません。
この点、 UAE法人税法のQ&A第78条によると、財務諸表を作成する際の会計基準にはIFRSが例示として挙げられています。今後は UAE GAAPではなく、IFRSがより一層UAEの会計基準の中心になっていくのではないかと考えられます。
従って、本記事を読んでくださっている現地日系企業及び支店の皆様におかれましては、IFRSに従った財務諸表を作成しておけば、特段問題はないものと考えられます。
国際財務報告基準(IFRS)とは
IFRSは、企業会計に関する世界共通の言語として国際会計基準審議会(IASB)作成されました。IFRSは世界144カ国以上で採用されており、財務諸表を同一の企業会計に基づき作成することで、設立されている国によらず同一の基準で作成された財務状況・経営成績の情報を入手できるため、各国ごとに別のルールに従って作成された財務諸表と比べて企業間の比較可能性が高くなります。また、海外投資家から見ると、世界共通ルールで作成された財務諸表は安心感があり、投資を集めやすいというメリットもあります。
IFRS以外の方法で財務諸表を作成しても良いとされる場合
上記で記載した通り、UAEでは今後はIFRS適用が推奨されます。この点、IFRSはUAE GAAPと比較してその対象は非常に広範囲に規定されており、検討すべき科目も多岐にわたります。しかし中小企業の経営者にとって、広範囲かつ多岐にわたるIFRSを厳密に自社で適用することは、金額的にも人員工数的にも容易ではありません。
そのため法人税法では、そういった中小企業向けの救済措置として、下記のような規定が設けられています。
| 収益が5,000万AEDまでの課税対象者 | 財務諸表作成に中小企業向け国際財務報告基準(「中小企業向けIFRS」)の適用を選択することができる |
| 収益が300 万AEDまでの課税事業者 | 連邦税務当局に届け出を行うことにより、現金主義に従った財務諸表を作成することが出来る。(現金主義会計とは、「課税対象者が現金の受払いがあった時点で収入と支出を認識する会計方法) |
今後、法人税の適用に際して新たに財務諸表の作成を考えている場合、その会計期間の収益の金額に応じて適用される会計基準を適切に見定めて、より自社の方針に沿った会計基準を適用すれば良いということになります。
(参考)国際財務報告基準(IFRS)とUAE GAAPの違い
IFRSではなくUAE GAAP(UAE現地で認められている会計基準)を適用する必要があるという企業向けに、IFRSとUAE GAAPとの主な相違点についても解説します。IFRSとUAE GAAPの相違点は主に以下の5つがあります。
1.原則ベースとルールベース
IFRSは「原則主義」と呼ばれ、企業が財務諸表を報告する際に従うべきガイドラインの枠組みを提供しています。
法的形式だけでなく、取引や事象の実質に焦点を当てた基準となっています。
一方、UAE GAAPはルールベースであり、企業が財務諸表を作成する際に従わなければならない特定のルールや手続きを規定しています。すなわちUAE会計基準は、取引や事象の実態よりその法的形式に重点を置いている点で異なります。
2. 資産の認識
IFRSでは資産の定義が広く、のれん、特許、商標などの無形資産も認識することができます。
一方でUAE GAAPは資産の定義がより限定的で、土地、建物、設備などの有形資産のみに認識を限定しています。
3.在庫の取り扱い
GAAPとIFRSでは、棚卸資産の評価に関する取扱いが大きく異なります。
IFRSでは、後入先出法(Last-in, First-out:後入先出法)による棚卸資産の会計処理は禁止されている一方で、UAE GAAPの規定では後入先出法が認められています。両システムとも、加重平均原価法と先入先出法(FIFO)は制度として認められています。UAE GAAPでは在庫の評価損を計上することは認められていないが、IFRSでは特定の状況下で認められている。
4. 収益の認識
IFRSとUAE GAAPでは、収益認識に関するルールが異なります。IFRSはリスクと経済価値の移転に重点を置いているのに対し、UAE GAAPは所有権の移転に重点を置いています。
この違いにより、収益認識のタイミングにばらつきが生じ、利益率に影響を与える可能性がある。
5. リース会計
IFRSでは、リース期間や資産の性質にかかわらず、ほとんどのリースを貸借対照表で認識することが求められている。UAE GAAPはより緩やかで、一部のリースをオペレーティング・リースとして分類し、貸借対照表で認識しないことを認めている。
まとめ
今後、法人税の申告や納税に伴い財務諸表を作成される日本企業の方向けに、どのような会計基準に準拠するべきかについて、記載させていただきました。
どのような会計基準に準拠するかは現地法人のみならず、連結財務諸表にも重要な影響を及ぼす可能性があります。
どの会計基準が自社にとってメリットがあるのか知りたい、もしくは会計基準の適用に不安があるという方については、お気軽に当社までご相談ください。
