UAEは、国家として規制を非常に少なくし、税金を最小限とすることで富裕層や外国企業を誘致し、世界から富を集め、金融大国・観光大国として成功してきました。
その反面、裏資金や税金の逃避先として機能してきた面もあります。実態のないペーパーカンパニーが設立されたり、犯罪や資金洗浄に使われるなどの裏の面も問題になってきました。国として成熟していくにつれて、規制や税制を整備することが諸外国からも求められています。
そういった経緯もあり、一定の要件を満たす企業に対し、コンプライアンスに関する書類の提出を義務づけています。UAEに設立された企業は、規制に該当するかを見極め、遵守し続けなければなりません。
この記事では、UAEのコンプライアンス規制のうち多くの日本企業の対応が必要な資料について説明します。
それはAML、ESR、UBOの3つです。以下で説明していきます。
【金融業などが対象】マネーロンダリング防止(AML)
AML(Anti Money Laundering,資金洗浄の防止)とは、犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関等による収益の発見や検挙等を逃れようとする行為のことを言います。これには、犯罪収益を使って以下のような用途に使用し、「表で使えるお金」に変えてしまうことが含まれます。
- 不動産や貴金属などの資産を購入する。
- ビジネス(飲食店や遊興施設)を設立し、売上金として資金を入れる。
- 自分が実質的支配者であるチャリティや慈善団体に寄付する。
- タックス・ヘイブンを活用し、経費として計上することで税金を逃れながら資金を移動する
犯罪収益は使用されることを防ぐことで資金を取り戻せる可能性もありますが、一度マネーロンダリングされてしまった後は、もはや取り戻すことは極めて困難です。
マネーロンダリングは、犯罪の資金源を枯渇させ、犯罪活動を阻止するために重要です。
AML規制は、金融サービスおよび指定非金融業・専門職(DNFBP)の企業に適用されます。
具体的には銀行、保険会社、代理店、ブローカー、不動産業者、会計士などが含まれます。
AML法に基づく犯罪には、偽名での口座開設や、デューデリジェンスの不履行、犯罪のリスクを判断するために必要な措置の不履行などが含まれます。このような犯罪に対する罰金はAED 100,000からAED 5,000,000です。
違反者は禁固刑に処せられることもあります。
AMLは特段のフォーマットがあるわけではなく、当局の指示に基づいて情報を開示しなければなりません。
【受動的所得のある事業】経済的実態規制(ESR)の記載・提出
2020年8月に導入された経済的実態規制(ESR)とは、いわゆる租税回避地(タックス・ヘイブン)にペーパーカンパニーを設立する等の方法で、租税回避行為が行われてしまうことを防止し、租税の公平性及び税収の確保を図るために導入されました。経済開発協力機構(OECD)やEUで求められる基準に沿うことが求められています。
ESRでは、UAEに存在する全ての企業に対し「経済的な実態があるのかどうか」を証明することを求めています。事業活動がUAEで適切に行われているかどうかを判断するために、従業員数、経費の最低支出額、事業拠点の存在の有無などから判断することになります。
ESRは全ての事業に対して該当するわけではなく、主に受動的所得を受ける事業に対する規定です。
受動的所得とは、金利やリース、権利などから生じる、事業活動として多くのリソースを割くことなく利益が生まれてくるような事業から生じる所得のことを指します。具体的に対象となる事業活動は以下の通りです。
- 銀行業
- 保険業
- 投資ファンド管理
- リース業
- 本社事業
- 輸送業
- 持株会社
- 知的財産(IP)
- 流通・サービスセンター事業
上記事業を行っている法人は、ESRを満たすことを証明するため、以下のような経済的実態テストの要件を満たさなければなりません。主な内容は以下の通りです。
関連する経済活動がUAEで指揮・管理されていること。
主要な収入源を生み出す活動がUAE国内で行われていること。
UAEで適切な従業員を雇用し、施設を持ち、事業活動に支出を行っていること。
ESRの提出は財務省(MoF)のポータル上で行われ、会計期間終了日から6カ月以内に行われる必要があります。
【全業種対象】最終受益者(UBO)の記載・提出
UBO(Ultimate beneficial owner)とは、企業の実質的支配者、つまり会社で実際に指揮命令を下す立場にある者や、最終的に会社の利益を受け取る権利のある者のことを言います。
名義貸しなどによって代表取締役を別に立て、犯罪行為やマネーロンダリングやテロ資金供与を防止することを目的とした制度です。
UBOは、会社の株式や議決権を25%以上所有する個人のことを指します。これ以外にも取締役や管理職の過半数を解任する権利を持つ者も含まれます。そのような人物が存在しない場合、UBOは会社に対して重要な支配権を行使するすべての人物となります。
UBO法は、メインランド及びフリーゾーンに関わらず、UAEで登録されたすべての企業に適用されます。
企業は、受益者情報及び株主・パートナー情報を、速やかに許認可当局に提出しなければならず、受益者と株主の詳細が正確であることを証明する補助書類を添付しなければなりません。
万が一当局への提出を怠ると、会社のライセンスを取り消されてしまったり、事業活動が停止されてしまう可能性があります。
UAEでビジネスを行う企業は、最新の規制を遵守することが重要です。
AMLやESR、UBOの提出の代行を依頼したい、その他ご質問がある方はお気軽にお問い合わせください。
