支店や駐在員事務所は法人税の対象になるのか

投稿:2023年8月6日更新:2023年8月10日お知らせ , ブログ

日本に本社がある企業で、UAEに支店を展開したり、駐在員事務所を置いている会社さんも多くあるかと思います。

法人税が導入された後、現地支店や駐在員事務所に対して法人税は対象になるのでしょうか?今日は法人税が課されるケースとその条件について記載していきたいと思います。

UAEにおける課税対象者とは

UAE法人税法上、課税対象者は主に下記の3つと定められています(法人税法第11条3項4項)。

1.UAEの居住者。
2.UAEの非居住者であって、国内に恒久的施設をもつもの。
3.UAEの非居住者であって、国内源泉所得を持つもの。

1.UAEの居住者とは、国内で設立された法人や、実質的に国内で管理運営されている外国法人、国内で事業を営む個人事業主などのことを指します。国内法人は、メインランド(本土)法人やフリーゾーン法人などの会社形態にかかわらず、そのすべてが居住者と認識されます。

ただし、外国法人であってもUAE 内で実質的に管理・支配されている法人は居住者として扱われます。
法人のみならず、事業活動を行う個人(個人事業主)は、当該事業から生じる所得に関しては法人税法上の居住者として扱われることになっています。

仮に居住者とみなされなかった場合であっても UAEで法人税の課税対象になるケースがあります。

それは 2. 国内で恒久的施設を有すると判断される場合、もしくは恒久的施設はないものの、3. UAE国内に国内源泉所得があると考えられる場合は、法人税が課される可能性があります。

では、支店や駐在員事務所は上記の3つのいずれかの条件に該当し、課税対象者となるのかどうかを検討します。

「支店」は課税対象者に該当するか

まず、支店という形態は法人格を持たないため、国内で設立された法人や管理下にある外国法人という定義には当てはまりません。よって、支店は 1.UAEの居住者には該当しません。

次に「恒久的施設」に該当するかどうかを検討します。UAEの法人税法では、以下のようなものが恒久的施設に該当するものとして列挙されています(法法第14条2項)。

・経営上の意思決定が実質的に行われる場所(取締役会の開催場所など)
・支店
・事務所
・工場
・作業場
・土地、建物、その他の不動産
・天然資源を探査するための設備または構造物
・鉱山、油井またはガス井、採石場、または天然資源を採掘する場所
・建築現場、建設プロジェクト、評価または設置の場所、または6カ月を超える監督業務。

こちらの列挙にある通り、 UAEの支店は 2. 恒久的施設の例示に含まれるということになります。
よってUAEに支店を持つ日本法人は課税事業者に該当するため、原則として法人税の課税事業者に該当します

ただし、支店の判断はあくまで経済的実態に応じて決定されます。例えば、支店とは名ばかりであって全く営業行為をしておらず、人員もいないなどのケースもあるかと思います。支店が収益を上げていない場合は、登録する法的義務がない場合もあります。このような判断は、企業の実態に応じて個別判断となるため、慎重に検討することが必要です。

「駐在員事務所」は課税事業者に該当するか

駐在員事務所には法人格がなく、親会社と同一の法人格とみなされます。
また、通常駐在員事務所は営利活動を行うことは想定されておらず、本社との連絡業務や市場調査、本社の投資の機会の促進などの準備的・補助的な活動が一般的な役割となります。

UAEにおける事業活動が準備的または補助的な性質のものである場合、恒久的施設は生じないものとされています(法法第13条3項de)。これは、準備的または補助的な活動とは、それ自体が外国企業の事業全体の本質的かつ重要な部分を形成するものではないからです。
準備的・補助的活動の例としては、限定的なマーケティング活動や販売促進活動、市場調査などが挙げられます。

さらに、駐在員事務所は上記で例示した法人税法に規定される恒久的施設のいずれにも該当しません。よって、2.恒久的施設とは見なされないことになります。さらに、準備的・補助的な活動に限定されており、収益を上げないということであれば、3.国内源泉所得も発生し得ないことになります。

以上の理由から、駐在事務所は課税事業者の定義を満たさず、UAEでは法人税の申告及び納税は必要ないということになります。

ただし、駐在員事務所といっても、営業行為を行っていたり、売上に直結するような事業活動を行っている会社も存在するかと思います。そういった場合は駐在員事務所であっても恒久的施設や国内源泉所得とみなされ、法人税の納税が必要になる可能性がある事に留意してください。
法人税導入後は、実態として営業活動をしているような拠点については駐在員事務所という形はそぐわず、支店や現地法人という形に組織変更することも検討した方が良いかもしれません。

外国恒久的施設免除と外国税額控除

上記で説明した通り、日本法人がUAE国内に有する支店はPEに該当するため、原則として法人税がかかります。一方、支店は法人格を持たないため、税務会計上は本支店を合算して本店所在地である日本で法人税が課されることになります。結果としてUAEでも日本でも法人税が課されることになり、二重課税の問題が生じます。

これについて説明するために、以下のような事例を考えます。

・S社は日本に本社を持っており(A本店)、UAEに在外支店(B支店)を持っています。
・A本店では利益が600、B支店では利益が400出ているとします。
・便宜的にUAEの法人税率は9%、日本の法人税率は30%であるとします。

この場合、B支店はUAEの恒久的施設に該当するため、法人税の課税対象者です。
よって9%の法人税がかかり、B支店の法人税は 400×9% = 36 となります。

一方で、支店を持つ会社は、本支店を合算して税額を計算する必要があります。
そのため、A本店の納税額は(600+400)×30%= 300 となります。

グループ全体でみた税額は336となりますが、B支店の法人税 36 が二重課税されていることが分かります。これでは、企業の税負担が不当に重くなってしまいます。

こういった二重課税の問題を避けるため、UAEに進出している支店は外国恒久的施設免除(法法第24条1項)に関する申請を出すことで、支店にかかる法人税を非課税とすることができます。
この申請が承認されると、B支店側は非課税となることから、以下のように二重課税を排除することが出来ます。

B支店:400×0%=0
A本店:(600+400)×30%=300

もし仮に何かしらの理由で外国恒久的施設に関する免除を申請することができなかった場合は、日本側で課税所得を計算する際に、外国で支払済の税額について日本側の税務申告時の控除を申請することができます。これを外国税額控除制度と言います(法法第47条1項, Foreign Tax Credit)。

この場合の計算方法は以下の通りとなり、合計の税額が変わらないことが分かると思います。

B支店:400×9%= 36
A本店:{(600+400)×30%}-36= 264

日本でもUAEと同様、租税条約を締結する国家間の外国税額控除の制度を認めていることから、UAEは外国税額控除の対象になります。外国恒久的施設の免除や外国税額控除の制度によって、潜在的な二重課税を排除または軽減することが可能になっています。

まとめ

UAEに支店や駐在事務所を持つ場合、納税義務が生じうるかという点について解説しました。

支店や駐在員事務所という名前だけで判断するわけではなく、営業活動を行っているのか、恒久的施設に該当するかを経済的実態に応じて個別に判断する必要があることが分かって頂けたかと思います。

法人税の納税義務の有無は、資金繰り的にも非常に大きな問題であり、慎重に検討する必要があります。UAEに支店や駐在員事務所をもつ会社で、税務専門家にご相談されたい方がいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせいただければと思います。

 このブログを書いた人

ALWASIQ Management Consultants ジャパンデスクの岡本です。
UAECA(アラブ首長国連邦会計士),公認会計士・税理士(日本)。
UAEに進出する日系企業向けに最新の税務情報を発信しています。

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