適格フリーゾーン・パーソン、適格所得について解説【UAE法人税】

投稿:2023年8月10日更新:2023年8月11日お知らせ , ブログ

UAEの法人税法上、 国内で適切な手続きを経て設立された法人については、メインランド法人であるかフリーゾーン法人であるかに関わらず、原則としてそのすべてが課税事業者となることが明記されています。

しかしながら、フリーゾーン法人のうち、一定の要件を満たす「適格フリーゾーン・パーソン」については、通常の法人とは異なる法人税の計算方法が適用されます。今日は「適格フリーゾーン・パーソン」とは何か、また適格フリーゾーン・パーソンに該当するための条件、さらにその法人税の計算方法について説明したいと思います。

適格フリーゾーン・パーソンとはなにか?

フリーゾーンとは、主に外資系企業の誘致を目的として、UAEにおいて税制面等で優遇されている経済特区のことを指します。具体的な優遇内容としては「100%外資による経営が可能」「最大50 年間の非課税制度」「UAE国籍の従業員の雇用義務なし」「ビザや会社設立の手続きがスピーディ」など、フリーゾーンでは外国人がビジネスを行うにあたり望ましい環境が揃っています。

フリーゾーン・パーソンとは、フリーゾーン内で設立され、登録された法人のことを言います。フリーゾーンに登録されているメインランド(本土)法人または外国法人の支店もこれに含まれます。フリーゾーンでは、MoF(Mintry of Finance, 財務省)やFTA(Federal Tax Authority, 国税局)など当局の規定するルールに準拠しながらも、実務的な部分については、各首長国が規定するルールに従って運営されています。

先述の通りフリーゾーンはもともと外資誘致を目的とした制度だったので、法人税の導入に伴いまったく税務メリットがなくなってしまっては、フリーゾーンの趣旨が失われてしまいます。そこで政府としては、フリーゾーン法人であっても、一定の要件を満たす会社に限り「適格フリーゾーン・パーソン」に該当するものとして、税制上の優遇を引き続き受けられることにしました。

適格フリーゾーン・パーソンの条件は以下の通りです(法人税法第18条1項)。

・経済的実態を有すること。税務上の理由だけでなく、実態として事業活動を行っていること。
・内閣の決定によって指定される「適格所得」を得ていること。
・移転価格税制を遵守し、移転価格に関する文書を管理・保存していること。
・適格フリーゾーン・パーソンになる権利を放棄していないこと。

上記の「適格所得」とは以下のように定義されています(適格フリーゾーン・パーソンの適格所得の決定に関する閣議決定第55号)。

・他の適格フリーゾーン・パーソンとの取引から得られる所得(除外活動から生じる所得は除く)。
・非適格フリーゾーン・パーソンとの取引のうち、適格活動から生じる所得。
・適格フリーゾーン者が行う一定割合未満の非適格活動から生じる所得(デミニマス要件*)。

「適格活動」とは以下のような事業活動を指します(適格活動および除外活動に関する2023年閣議決定第139号)。

(a) 商品または原材料の製造。
(b) 商品または原材料の加工。
(c) 株式その他の有価証券の保有。
(d) 船舶の所有、管理、運航。
(e) 当該国の所轄当局の監督下にある再保険業務。
(f) 国の管轄当局の規制監督を受ける資金管理サービス。
(g) 国の所轄当局の規制監督を受ける資産および投資管理サービス。
(h) 関連当事者に対する本部サービス。
(i) 関連当事者に対する財務および融資サービス。
(j) エンジンおよび回転部品を含む航空機の融資およびリース。
(k) 指定地区内または指定地区から行う商品もしくは原材料の流通。
(l) 物流サービス。
(m) 本条(a)項から(l)項までに掲げる活動に付随する活動。

ひとつひとつ用語の定義を追っていかなければ全体を掴みづらいため非常に難解ですが、要約すると適格フリーゾーン・パーソンに該当する企業は以下の全てを満たす法人のことです。

【適格フリーゾーン・パーソンの条件】

前提条件経済的実態を有し、移転価格税制などの法令に準拠している会社。
取引内容下記のいずれかの取引だけを行っていること。
①相手先が適格フリーゾーン・パーソンであり、除外活動ではない取引。
②相手先が適格フリーゾーン・パーソンでないが、適格活動であるもの。
その他取引内容に上記以外のものが含まれている場合は、その売上高の割合が
全体の5%未満もしくは5,000,000AED未満であること(デミニマス要件*)。

適格フリーゾーン・パーソンの税制

適格フリーゾーン・パーソンは、自主的に適格フリーゾーン・パーソンの権利を放棄しUAEの法人税率である9%を選択しない限り、法人税率が0%となります。適格フリーゾーン・パーソンの権利は、その資格要件を満たした場合に自動的に行われます。ただし、適格所得に該当しない課税所得については、9%の法人税率が適用されます。

適格フリーゾーン・パーソンは、原則的な法人税の計算方法で用いられる閾値、すなわち、課税所得が年間でAED375,000までは法人税がかからないという金額的基準はありません。
適格所得に対しては0%の税率、適格所得に該当しない所得に対しては9%の税率として計算されることになります。

【適格フリーゾーン・パーソンとそれ以外の法人に対する税率】

適格フリーゾーン・パーソン適格所得に対して、0%
非適格所得に対して、9%
適格フリーゾーン・パーソン以外(一般的な法人)課税所得のうち、375,000AEDまでのものに対して0%
課税所得のうち、375,000AEDを超えるものに対して9%                 

通常は適格フリーゾーン・パーソンのほうが税額が低くなるケースが多いかと思いますが、非適格所得の割合が多い場合は法人税が課されない閾値(375,000AED)がない分、適格フリーゾーン・パーソンのほうが税額が高くなる可能性があります。

また、適格フリーゾーン・パーソンは毎年その適格性を満たしているかどうかを判断するため、監査済財務諸表を作成して提出しなければなりません(閣議決定139号第5条1項b)。よって、そのコストも税率以外に考慮する必要があります。

もし仮に適格フリーゾーン・パーソンを満たさなかった場合は、要件を満たさなくなった期間の開始時からその後4課税期間の間において、適格フリーゾーン・パーソンになることが出来なくなります。

(参考)メインランドに支店を持つフリーゾーン・パーソンの税率

フリーゾーン・パーソンがメインランドに支店を持つ場合、課税所得がメインランドで発生する限り、通常の法人税率9%を支払う必要があります。

しかし、適格フリーゾーン・パーソンであれば、課税所得がフリーゾーン地域から発生する場合、フリーゾーン用とメインランド用の2つの帳簿を管理していれば、法人税率0%の恩恵を受けることができます。そうでない場合、フリーゾーン・パーソンは、フリーゾーンの所得と本土の所得の両方に対して9%の法人税を支払うことになります。

まとめ

フリーゾーン法人を運営している日本企業は、自社が適格フリーゾーン・パーソンに該当するか否かが大きな検討事項になると思います。その可否によっては発生する法人税の金額にも大きな影響を及ぼします。

自社が適格フリーゾーン・パーソンに該当するのかの検討や、適格活動及び非適格活動の適切な帳簿のつけ方など不安がある方は、一度当会計事務所までご連絡をいただければと思います。

 このブログを書いた人

ALWASIQ Management Consultants ジャパンデスクの岡本です。
UAECA(アラブ首長国連邦会計士),公認会計士・税理士(日本)。
UAEに進出する日系企業向けに最新の税務情報を発信しています。

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