海外で法人を設立し経営するにあたり、税金の問題は避けては通れません。税制は国によっても大きく違うこともあるため、それぞれの国における税務専門家と相談しながら対応する必要があります。
一方で、世界中の多くの国で、税金の納税有無を決定する基本的な概念があります。それが「恒久的施設」と呼ばれる用語になります。 UAEでも同様に、PEという概念が課税の判断において非常に重要な意味を持っています。
今日は国際税務を考えるうえで、非常に重要な概念となる「恒久的施設」という概念について説明して行きたいと思います。
「PEなければ課税なし」という原則
恒久的施設(Permanent Establishment, 以下 「PE」 と呼びます)とは税務特有の概念であり、特定の定義があるわけではありませんが、一言で言うのであれば「国内で価値を生み出すために必要な一定の場所や人」のことを言います。
非居住者が UAE国内に固定または恒久的な場所を有し、そこを通じて事業の全部または一部が行われている場合、PEを有すると規定しています。
すなわち、(1)UAEに固定又は恒久的な場所があること、(2)その固定又は恒久的な場所を通じて事業が行われていることが条件となります。固定又は恒久的な場所とは、UAEにある程度の永続性を有する物理的な場所が存在することを意味します。
国際税務では「PEなければ課税なし」と言われるほど、 PEの有無が税金の課税の有無に大きく影響してきます。税務当局は課税判断にあたりPEに該当するものがないかどうかという視点でチェックしてきます。
PEが存在する場合には、それを外国法人とは独立した内国法人であるかのようにみなして、そこに帰属するすべての所得をPEの存在する国で申告しないといけません。
法人税法におけるPEの例示
それでは、具体的にどういったものがPEに該当するのでしょうか。UAEの法人税法では、 UAE 内に固定または恒久的な場所を有し、そこを通じて事業の全部または一部が行われているかどうかの判断として、一定の場所と人物に分けて恒久的施設に該当するものを列挙しています。
PEに該当する「一定の場所」とは、以下のものを指します(法人税法第14条2項)。
- 経営上の意思決定が実質的に行われる場所(取締役会の開催場所など)
- 支店
- 事務所
- 工場
- 作業場
- 土地、建物、その他の不動産
- 天然資源を探査するための設備または構造物
- 鉱山、油井またはガス井、採石場、または天然資源を採掘する場所
- 建築現場、建設プロジェクト、評価または設置の場所、または6カ月を超える監督業務。
一方で、以下についてはPEに該当しないものとされています(法法第14条3項)。
- 商品の保管、展示、または配達のための場所。
- 他の者の展示を目的とした商品在庫の保管場所。
- 非居住者のための商品や商品の購入、または情報収集の場所。
- 非居住者のための準備的・補助的活動(限定的なマーケティング活動や販売促進活動、市場調査等)の拠点。
PEに該当する「一定の人物」とは、以下のものを指します(法法第14条5項)。
- 継続的に会社の代理として契約を締結する人。
- 会社の許可を得ることなく、契約の変更や交渉を行う権限のある人。
以下についてはPEに該当しないものとされています(法法第14条6項7項)。
- 代理人として法的または経済的に独立して州内で事業または事業活動を行っている者
- 滞在が一時的かつ例外的な状況によるものであり、大臣が条件を定めた場合
- その非居住者の主となる収入源ではなく、国から収入を得ていない者として大臣が条件を定めた場合
上記に列挙されているような一定の場所や人については恒久的施設と認定され、国内にあると認定された場合は法人税法上の課税対象者とみなされる可能性が高いです。
またPEは形式的な名称で決定されるのではなく、経済的実態によって判断されます。
例えば、 UAEで法人税をかからなくするために「支店」という名称を用いず、「倉庫」や「展示場」であるという説明をしたとします。
このような場合、倉庫や展示場という形式的な名称で判断するということではなく、実態として支店と同等の経済活動を行っているかどうかで判断します。
例えば、営業行為や契約の締結、労働力の雇用や採用活動などの事業活動について、固定または恒久的な場所を有し、そこを通じて事業の全部または一部が行われていると判断される場合には、形式的な名称に関わらず恒久的施設と認定される可能性があります。
その結果、その恒久的施設に帰属する所得に対しては法人税の対象になり、法人税の申告納税が必要になることがあります。
外国恒久的施設に関する免除
上記で説明した通り、日本法人がUAE国内に有する支店はPEに該当するため、原則として法人税がかかります。
一方で支店は法人格を持たないため、税務会計上は本支店を合算して本店所在地である日本で法人税が課されることになります。結果としてUAEでも日本でも法人税が課されることになり、二重課税の問題が生じます。
こういった二重課税の問題を避けるため、UAEに進出している支店は外国恒久的施設免除(法法第24条1項)に関する申請を出すことで、法人税を非課税とすることができます。これについては以下の記事で詳細に解説しています。
なぜPEが重要なのか?
なぜ国際税務を考えるにおいてPEという概念が重要視されるのか、具体的な例(A社)で考えてみます。
【例示】
- A社はドバイに本社を置き、日本に支店がある製造メーカーである
- ドバイ本社では製品の製造管理およびアフターサービスのみを行う
- 製品の製造や顧客への梱包・納入作業などはすべて日本支店で行う
もし仮に、当該製品から発生する全収益についてはドバイ本社で請求を立てることとし、日本支店には一切収益が上がらなかったとしましょう。その場合、売上金は全てドバイ側に流れ、日本支社側では全く収益が上がらないことになります。
ここで、ドバイと日本の税率の差に目を向けてみます。
ドバイでは2023年6月以降、法人税が施行され、その法人税率は9%です。
日本は、法人税以外にも法人住民税やその他地方税など複数の課税が発生するので一概には言えませんが、概ね法人実効税率は一般的に35%程度となります。その場合、二国間の税率差は26%にも及びます。
A社としては、日本側で全く収益を上げずにドバイ側ですべての収益を上げた方が支払う法人税は少なくて済むということになります。もしPEという概念がなければ、そういった調整が出来てしまいます。
このような税金の調整が出来てしまうことは、企業間の公平性を著しく書くとともに、法人税率が高い国においては税収面でも著しく不利な状況となってしまい、国家間に軋轢を生じさせてしまいます。
そういった状況を避けるため、形式的な法人形態がなくとも、その国でPEを持ち事業を行っていると判断される場合は、あたかもそれを外国法人とは独立した内国法人であるかのようにみなして、国内のPEに帰属するすべての所得を申告しなければならない、というルールが世界で合意されているのです。
まとめ
恒久的施設はその国において、納税義務の要否を判断する非常に重要な概念となります。一方で形式のみならず経済的実態が求められることから、恒久的施設の判断は高度な税務判断が要求されます。他方で、国際的な二重課税を避けるため、外国恒久的施設に関しては届け出を行うことでUAEの法人税法上の非課税とすることが出来ます。
ポストコロナ・ウィズコロナ以降、急速にデジタル化が急速に進行している中で、PEの考え方や概念も大きく変わってきていますし、これからも常に変化していくものと思われます。
恒久的施設に関する考え方に際して、専門家の意見を聞きながら慎重に判断をされたいという方がいらっしゃいましたら、当社までお気軽にご相談いただければと思います。
