資本関係のある会社間の資産の譲渡や組織再編については、当事者間でその譲渡価格を自由に決められます。すなわちグループ企業の場合、グループ全体から判断しどの会社で利益を計上するか調整することができることになります。
日本ではそういった税金計上の恣意性を排除するため、 100%の資本関係がある会社間ではグループ法人税制が適用され、固定資産や組織再編等から生じる利益については、原則として生じなかったものとして(帳簿価格で取引が行われたものとして)取り扱われます。
UAEの法人税制においても、グループ法人税制と全く同じではないものの、これに近い規定が記載されています。このようなグループ間での事業譲渡や組織再編に関する損益の取り扱いについて解説したいと思います。
「適格グループ」内の資産の譲渡は損益が発生しないものとして取り扱うことが出来る
「適格グループ(Qualified Group)」のメンバーである企業は、資産および負債を帳簿価額で移転することができます。すなわち、法人税上の損益は発生しないことになります(法人税法第26条1項)。
適格グループとは、以下の条件を満たすグループのことを指します。
【適格グループの条件】
- 居住者もしくは恒久的施設を有する非居住者である法人であること。
- 直接的または間接的に75%以上の株式や所有権を有する(されている)法人であること。
- 法人税の免除者ではないこと。
- 適格フリーゾーン・パーソンでないこと。
- 同じ会計基準で財務諸表を作成し、会計年度が同じであること。
※なお、これに近い概念として『税務グループ(Tax Group)』という概念があり、適格グループと混同しやすいので注意してください。これについては以下で説明しています。
日本のグループ法人税制では、条件に該当した場合は強制適用になっていますが、UAEの法人税法上は任意適用で、「出来る」規定にとどまっています。ただし、著しく時価から乖離した不合理な譲渡価格となっている場合は、移転価格税制やその他の規制によって実質的に否認されることになると思われます。
なお、譲渡日から 2 年以内に次のいずれかが発生した場合には、遡って適格グループ間の取引ではなかったように(譲渡時点の時価をもって)処理されることになっています(法法26条4項5項)。
【適格グループ間取引ではなくなる場合】
- 適格グループ外に資産または負債が移転された場合。
- 同一の適格グループのメンバーでなくなった場合。
これらの条件は、資産または負債が適格グループのメンバーに譲渡された後、そのメンバーが適格グループから脱退し、その結果、資産または負債の譲渡益が課税されないという事態を防ぐためのものです。
組織再編に関する損益の取り扱い(組織再編救済)
事業譲渡を含む、いわゆる組織再編行為においても、資産の譲渡と同じように損益を計上してなくて良いケースがあります。これを組織再編救済(Group and Restructuring Reliefs)といいます。
具体的には、事業譲渡や組織再編の対価として現金でなく株式等を受領した場合であって、投資が継続しており、未だに損益が実現していないと考えられるケースが該当します(法法第27条1項ab)。
この場合、当事者がいずれも以下の条件を満たしている必要があります(同条2項)。
【組織再編救済の条件】
- UAE居住者またはUAEに恒久的施設を有する非居住者である法人であること。
- 法人税の免除者ではないこと。
- 適格フリーゾーン・パーソンでないこと。
- 同じ会計基準で財務諸表を作成し、会計年度が同じであること。
この場合の譲渡された資産および負債は、譲渡時の帳簿価額で譲渡されたものとして取り扱われるため、損益が生じないことになります。資産の譲渡とは違い、組織再編行為等の場合は、株式の持分比率や所有権比率に関する具体的な数値基準(75%)の条件が無い点が異なっています。
なお、取引発生日から 2 年以内に次のいずれかが発生した場合には、遡って帳簿価格ではなく、損益が発生したように(譲渡時点の時価をもって)処理されることになります。これは資産の譲渡の規定と概ね同様です。
【適格グループ間取引ではなくなる場合】
- 譲渡人又は譲受人である課税対象者の株式その他の所有権の全部又は一部を、当該課税対象者が属する適格グループの構成員以外の者に売却、譲渡その他の処分をしたとき。
- 事業譲渡された資産や負債を譲渡または処分したとき。
これは、通常法人税が免除されるはずの譲受グループ会社の売却の直前に譲渡が行われ、取引の両当事者が同一の適格グループのメンバーであり続ける意思がないにもかかわらず、この救済措置が利用されるという状況を防ぐためです。
まとめ
固定資産の譲渡や組織再編などは一般的に金額が多額になることも多く、グループ間の損益を発生させるかどうかによって、課税所得が大きく変わってくるため、結果として納税額が大きく変動することも多々あります。
具体的にグループ間で資産の譲渡などが発生しており取引に損益が発生するのかどうか、不安な方や、相談したいという会社様がいらっしゃいましたら、お気軽に当会計事務所までお問い合わせください。
